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2008年3月 2日 (日)

「問う女」…彼女にとっての「敵」とは

「問う女」(中島みゆき 著、幻冬舎 刊)の感想 続き。
前回の記事はかなり書き急ぎだったんで、少し補足。

昔々、中島みゆきさん&松任谷由美さんの対談記事をAERA(だか朝日ジャーナルだか)で読んだ記憶がある。但し、ググってみてもひっかからないので記憶違いの可能性もあるが(あの「中島みゆき研究所」でも見つからなかったのだから)。
当時は「中島みゆき=暗い」VS「松任谷由美=明るい」的イメージが流行していたのだが、その記事の中でみゆきさんが「(両者にとって)『敵』は同じだもんね」と言っていた。

その記事をを読んでからしばらくの間、彼女にとっての「敵」とは一体誰なんだろうと考えていた。
「ひょっとして、私も含めたリスナーが『敵』なのかな?」なんてことも考えた。
世間の波に簡単に流されていく彼女たちの顧客層。その軽さを指して、敵と表現したのかななどと。
でも、それでは敵となる対象が広すぎるような気がしていた。

「問う女」を読んで、その範囲が少し絞られた様な気がする。
そして、彼女の歌に垣間見られる自責の念の源もちょっと見えたような気も。

みゆきさんは「言葉の重さ・怖さ」を知っている。
人は往々にして、その重さ・怖さから逃れるために、自分の言葉を音声化しないことで「逃げる」。
しかし、いくら音声としての言葉を語らなくとも、人は何らかの形で言葉を発するし、その意図はわかる人にはわかってしまうのである。

この小説の主人公も、基本的には「逃げて」いる。
逃げているうちに、外国人売春婦と会い、彼女との交流で自分が「逃げていた」ことに気づく。
そして、悲劇が起こり、その中で、主人公の周りには2種類の人がいることに気づく。
それは、主人公の勤めていた会社の上層部のような、言葉を鎧として使い自分にとって都合の悪いもの(それは往々にして弱いもの)を切り捨てて何の呵責も感じない人々と、自分たちの言葉を周囲の人間を気遣い受け入れることに使っている人々。主人公は後者の人々の存在を敢えて無視して自分の世界に閉じこもっていた。それがふとしたきっかけで、後者の人たちの存在に気づく。
そして、自分が過去に傷つけた他者は後者に属する人だったことを知る。そこから、自分の言葉を取り戻しにかかる。そのことで、つらい壁に打ちかかっていくが、その壁は自分の言葉で語り始めた主人公にとっては、意外にも壁ではなく、自分を受け入れてくれた。

ここで、みゆきさんの「敵」の姿がおぼろげな形を取ってくる。
「敵」とは言葉を使って、目の前にいる相手の思いを切り捨てる連中。みゆきさんが作った曲をただのBGM代わりに聞いている(聴いているではない)連中。他者の決めたフォーマットで、弱者を責め立てる連中。多数派にいるという安心感から、相手をどれだけ傷つけても自分の心は痛まない鈍感さを持った連中。
この小説の主人公もまた「敵陣」にいた。

そういう現実に目覚めた主人公は、みゆきさんの見方(分身)に立つことを決意する。
それが、この小説の結びの独白だろう

本当は、主人公だって、こんな醜さを露にする集団の中には戻ってきたくないんだ。
音声としての言葉は通じなくとも、言葉が伝わっていた人たちの世界にもぐりこみたいのだ。
でも、それでは本当の解決には結びつかないことを、既に知ってしまった。

だからこそ、この小説は主人公の独白で結ばれている。

------引用開始(太字等の強調は引用者による)------
「――――行って来ます。どれだけ長くかかるかわからない旅だけど、メャオを娘に返したら、私はきっと帰ってきます。
日本人しかいなければ安全だと嘯く彼等の国へ、私は、日本人である私を、強制送還します

------引用終了------

上っ面の音声だけで意思疎通ができているという錯覚に陥っている、そんな敵にもう一度向かい合って生きた言葉を伝えること、そのためには、先ず「逃げる」という行為から脱却しなければならない。
そして、「日本人しかいなければ安全だと嘯く彼等」にまっすぐに向き合わなければならない。
まっすぐに向き合うことで、彼らの傲慢を打ち砕き、彼らの醜い精神の鎧を引き剥がす。
そのためには、逃げたいという自分の首根っこを捕まえて「強制送還」しなければならないのだ。
それにより、戦闘は開始されるのだ。

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